リスクとの向き合い方を考えさせる好著『保険ビジネス』
知人である植村信保氏から、新著『保険ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)をお送りいただきました。植村氏は大手損害保険会社勤務の後、格付会社アナリスト、金融庁の任期付職員を経て、現在は福岡大学商学部教授として「保険論」「リスクマネジメント論」を教えていらっしゃいます。
「はじめに」において、国内の主な損害保険会社と生命保険会社それぞれのグループ分けを行い、各グループのシェアを示していますが、本著に登場する図版はこの見開き2頁のみです。「保険」を論じる以上、数字が多く出てくるのは避けられませんが、本文はすべて文章のみで、図版に頼らず、分かりやすく伝え切っていることに舌を巻きました。
第1章から第9章まで、すべての章が6テーマ+コラムでまとめられ、1テーマ4頁、コラム3頁(第9章のみ2頁)という「型」に沿って話が展開されています。保険のことを全く知らない読者も、リズムに乗って読み進めるうちに、楽しく知識が身に着くという仕掛けになっています。読むほうは楽ですが、書くのはずいぶん大変だったのではないかと想像します(感服)。
保険加入を考える際には、損得論に陥ることなく、自分がどのようなリスクを抱えているのか、それは何らかの対処が必要なものなのか、対処法にはどのようなものがあり、自分は何を選ぶのかといったことを、筋道を立てて考えていく作業が重要です。
著者は、“保険を含む金融商品の基本的なしくみと得意分野を知ったうえで、何より「自分の頭で考える」ということが、私たちに求められている”(「おわりに」より)と説きます。保険を検討中の方には、是非手に取っていただきたい1冊です。
ところで、「第9章:最新テクノロジーから学ぶ未来の保険の世界」の「3:自動車保険の未来はどうなる」の中で、”自動運転技術の進展が自動車保険を根本的に変えてしまうかもしれない”と述べています。ここで、レベル5の完全自動運転が実用化した2029年の世界を描いた、安野貴博氏の『サーキット・スイッチャー』を思い起こしました。SFミステリー小説という性格上、ネタバレ厳禁なので詳細は控えますが、「リスクとの向き合い方」という点でも考えさせられるものでした。